- 股関節唇損傷とは?
- 股関節唇損傷の主な原因
- 股関節唇損傷の症状
- 股関節唇損傷の診断方法
- 股関節唇損傷の治療法
- 股関節唇損傷のリハビリテーションと回復期間
- 日常生活での注意点と予防策
- 是非受診をしてください
- よくある質問
股関節唇損傷とは?
股関節唇損傷は、スポーツ選手や一般の方にも起こりうる股関節の疾患です。股関節は、大腿骨頭が骨盤の寛骨臼にはまる構造で、寛骨臼の縁にあるリング状の線維軟骨組織が股関節唇です。股関節唇は、関節の安定性を高め、タコの吸盤のように大腿骨頭を包み込み、スムーズな動きを助け、脱臼を防ぎます。また、衝撃吸収や関節内圧の維持にも寄与し、関節軟骨の栄養補給や潤滑を助けます。
股関節唇損傷とは、この股関節唇が断裂したりすり減ったりする状態です。激しい運動だけでなく、日常生活で徐々に進行することもあります。損傷すると股関節の安定性が低下し、不安定感が生じ、関節軟骨に負担がかかり「変形性股関節症」に進行する可能性があります。股関節唇には神経が分布しているため、損傷すると痛みを感じやすく、レントゲンで骨に異常がなくても痛みが生じる理由の一つとなります。
股関節唇損傷の主な原因
股関節唇損傷は複数の要因が絡み合って発生します。
形態的要因
(骨の形状の問題)
大腿骨寛骨臼
インピンジメント(FAI)
大腿骨と寛骨臼の骨形状の異常により、股関節を動かした際に骨同士が衝突し、股関節唇が挟まれて損傷します。カム型、ピンサー型、混合型があります。
寛骨臼形成不全
寛骨臼の被りが浅く、股関節が不安定になり、股関節唇に過剰な負担がかかり損傷しやすくなります。
外傷(怪我)
転倒や交通事故など一度の大きな外力で急激に損傷することもあります。
加齢に伴う変性
加齢により股関節唇がもろくなり、わずかな負担でも損傷しやすくなります。変形性股関節症の進行に伴い損傷することもあります。
これらの原因はしばしば関連し合います。FAIや寛骨臼形成不全がある場合、損傷の完全な予防は難しいとされています。
股関節唇損傷の症状
症状は損傷の程度や部位により様々です。
股関節や鼠径部
(脚の付け根)の痛み
最も一般的で、股関節前面の鼠径部に生じます。外側、お尻、太もも、稀に膝に放散することもあります。鋭い痛みや鈍痛で、特定の動作(あぐら、靴下を履く、立ち上がりなど)で悪化します 。進行すると安静時痛や夜間痛も現れます。
機械的症状
(引っかかりや音など)
- 引っかかり感
- ロッキング(急に動かせなくなる)
- 異物感
可動域の制限と不安定感
股関節の動きが悪くなり、特に深く曲げたり内側に捻ったりする動作で制限や痛みが誘発されます。FAI合併時は内旋制限が顕著です。「ぐらぐらする」「抜けそう」といった不安定感を訴えることもあります。
無症状
全く症状を感じない人もおり、全ての損傷が治療を必要とするわけではありません。
股関節唇損傷の診断方法
診断は複数の段階を経て総合的に判断されます。
問診と詳細な身体診察
症状、スポーツ歴、既往歴などを詳しく聞き取ります。股関節の可動域や圧痛を確認し、Anterior Impingement TestやFABER(パトリック) Testなどの誘発テストを行います。
画像診断
レントゲン検査
骨の形態異常(FAI、寛骨臼形成不全)や変形性股関節症の進行度を評価します。股関節唇自体は写りません。様々な角度、肢位で検査を行います。
MRI検査
関節唇や関節軟骨の状態を評価します。高解像度の撮影が必要です。股関節の一般撮影ではなく股関節唇を評価するための撮影が必要です。
診断的股関節内注射
超音波ガイド下に局所麻酔薬を股関節内に注射し、痛みが改善すれば股関節内部、特に関節唇損傷が原因である可能性が高いと診断します。
股関節唇損傷の治療法
治療法は「保存療法」と「手術療法」があり、症状や状態に応じて選択されます。
保存療法
多くの場合、まず保存療法が試みられ、約80%で痛みが改善するとされます。ただし、損傷自体の自然治癒は稀です。目的は炎症・痛みのコントロールと機能改善です。
安静、活動制限、
日常生活の工夫
股関節に負担をかける動作(深い屈曲、あぐら、脚組み)を避け、洋式の生活を心がけます。
薬物療法と注射療法
非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の内服・外用薬を使用します。痛みが強い場合はステロイド注射やヒアルロン酸注射も検討されます。
幹細胞治療
患者自身の幹細胞を培養し、損傷部に注射する再生医療も選択肢の一つと言われています。
手術療法
保存療法で改善しない場合や症状が強い場合、早期競技復帰を望む場合などに検討されます。
股関節鏡視下手術
関節鏡を用いた低侵襲手術です。小さな切開から内視鏡と器具を挿入し、関節内部を処置します。
- 関節唇縫合術: 損傷した関節唇を骨に縫い付け修復します。
- 関節唇切除術: 修復困難な場合や変性が強い部分を切除します。
- 骨形成術: FAIが原因の場合、衝突する骨の隆起を削り形状を整えます。
手術は高度な技術を要し、実施施設や専門医は限られます。メリット・デメリットをよく理解し決定することが重要です。
股関節唇損傷の
リハビリテーションと回復期間
リハビリは保存療法・手術療法いずれでも重要です。
保存療法後のリハビリ
痛みを引き起こさない股関節の動かし方や日常生活の注意点を習得・実践します。股関節周囲の筋力強化と柔軟性向上の運動を行います。
手術後のリハビリプロセス
関節の癒着や可動域制限を防ぐため早期から開始します。病院ごとの計画に基づき理学療法士が指導します。関節唇の治癒には約3ヶ月要するとされます。
回復期間とスポーツ復帰の目安
- 日常生活への復帰: 手術療法の場合、2〜3週間程度が一般的です。
- スポーツ復帰: 競技レベルや状態により異なります。半年程度が目安になります。
予後と再発予防
治療後も股関節の柔軟性維持と筋力強化が再発予防に重要です。
股関節唇損傷でやってはいけないこと
日常生活での注意点と予防策
症状悪化や再発を防ぐために注意点を守り、予防策を講じます。
股関節に負担をかけない
動作
深い屈曲、あぐら、脚組みを避けます。長時間の同姿勢を避け、立ち上がり時の工夫も有効です。
適切なストレッチと
筋力トレーニング
スポーツ前の準備運動、股関節周囲筋のバランス良い強化、柔軟性維持のストレッチが重要です。専門家の指導が望ましいです。
その他
適正体重の維持し痛みを感じたら無理をしないことも大切です。
FAIや寛骨臼形成不全など形態異常が背景にある場合、完全な予防は難しいとされますが、注意点を守ることでリスク低減や疼痛管理は可能です。
おわりに:専門医への相談
股関節の痛みや違和感が続く場合は、整形外科、特に関節専門医に相談してください。レントゲンで異常なしでも股関節唇損傷の可能性はあります。正確な診断と適切な治療が、症状改善、将来の機能維持、変形性股関節症への進行予防に繋がります。早期対応で良好な経過が期待できます。
よくある質問
股関節唇損傷と診断されました。やってはいけないことはありますか?
深くしゃがみ込む動作を繰り返す、高所からのジャンプ、急なダッシュ、股関節をねじる動作・可動域を広げる動作などは股関節に負荷をかけるため避けましょう。また、片足に重心をかける立ち方や歩き方をしてしまう方は姿勢の矯正が必要です。
股関節唇損傷はどれくらいで治りますか?
手術が必要なほど重度の場合は、1~2週間程度の入院期間と、最低限数ヵ月のリハビリは必要です。そこから、日常生活を不自由なく過ごせるようになるまでに、数ヵ月から1年要する場合もあります。