- 特発性大腿骨頭壊死症とは?
- 特発性大腿骨頭壊死症の主な原因と危険因子
- 特発性大腿骨頭壊死症のサイン
- 特発性大腿骨頭壊死症の検査と進行度(ステージ・病型)
- 特発性大腿骨頭壊死症の治療選択肢
- よくある質問
特発性大腿骨頭壊死症とは?
特発性大腿骨頭壊死症(とくはつせいだいたいこっとうえししょう)は、股関節の重要な部分である大腿骨頭への血液供給が不足し、骨組織が死んでしまう病気です(指定難病71)。これは骨が腐るのではなく、血流が途絶えることで骨組織が生命を失った状態を指します。
この病気の注意すべき点は、骨壊死が発生してから実際に痛みなどの症状が現れるまでに、数ヶ月から数年という時間差があることです。そのため、自覚症状がないまま病状が進行している可能性も否定できません。
もし治療せずに放置すると、壊死した骨は体重を支えきれずに潰れてしまい(圧潰)、大腿骨頭が変形します。骨頭の変形が進行すると、二次的に変形性股関節症を引き起こし、持続的な強い痛み、股関節の動きの制限、歩行困難など、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。
特発性大腿骨頭壊死症の
主な原因と危険因子
特発性大腿骨頭壊死症の「特発性」とは、はっきりとした原因がまだ完全には解明されていないことを意味します。しかし、いくつかの重要な危険因子が特定されています。
ステロイド剤
(副腎皮質ホルモン)の服用歴
全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患や臓器移植後などの治療で、一定量以上のステロイド剤を投与された場合にリスクが高まります。
アルコールの多量摂取
長期間にわたり日常的に多量のアルコールを摂取している場合も、発症リスクが上昇します。
喫煙
1日に20本以上の喫煙も、アルコール摂取と同程度にリスクを高めることがわかっています。
飲酒と喫煙の複合
特に注意が必要なのは、多量の飲酒と喫煙の両方の習慣がある場合です。これらの危険因子が組み合わさると、発症リスクが単独の場合の合計よりもはるかに高くなる(相乗効果)ことが研究で示されています。これは、両者が血管の健康に悪影響を及ぼすという共通のメカニズムが関与している可能性を示唆しています。
狭義の特発性
上記のような明らかな危険因子がないにもかかわらず発症するケースもあり、これを狭義の特発性大腿骨頭壊死症と呼びます。
特発性大腿骨頭壊死症のサイン
特発性大腿骨頭壊死症の初期症状として最も多いのは、比較的急に始まる股関節周辺の痛みです。この痛みは、太ももの付け根(鼠径部)だけでなく、お尻や太もも、時には膝や腰に現れることもあり、他の疾患と間違われることもあります。特に、歩行時や体重をかけたときに痛みを感じやすいのが特徴です。
病状が進行し、大腿骨頭の圧潰が始まると、以下のような症状が現れることがあります。
- 持続的な強い股関節痛
- 足を引きずるような歩行(跛行)
- 股関節の動きが悪くなる(関節可動域制限)
- 日常生活での困難:
- 靴下を履く、足の爪を切る動作
- あぐらをかく
- 和式トイレの使用
- 階段の昇り降り
- 椅子から立ち上がる動作
重要なのは、骨壊死が起きた初期段階では痛みを感じないことが多いという点です。多くの場合、骨が潰れ始めてから症状が出現するため、症状が出たときにはすでにある程度病状が進行している可能性があります。両側の股関節に発症することもあります。
特発性大腿骨頭壊死症の検査と進行度(ステージ・病型)
特発性大腿骨頭壊死症が疑われる場合、整形外科専門医による診察と画像検査が不可欠です。
X線(レントゲン)検査
初期には異常が見られないことも多いですが、進行すると骨頭内の帯状硬化像(骨が硬くなった影)や、骨頭の圧潰、三日月状の骨折線(クレセントサイン)などが確認できます。
MRI検査
X線検査で異常が見られない早期の段階でも、骨壊死を発見できる最も感度の高い検査です。特徴的な所見として、T1強調画像における帯状の低信号域(壊死部分が黒っぽく見える)が挙げられます。壊死の範囲や位置を正確に把握するためにもMRIは極めて重要であり、早期診断と治療方針決定の鍵となります。
骨シンチグラフィー
放射性同位元素を用いて全身の骨の状態を調べる検査で、MRIと同様に早期の血流低下や骨壊死を捉えることができます。
これらの検査結果を総合的に評価し、国が定める診断基準に基づいて診断が確定されます。
診断後は、病状の進行度を示す病期(ステージ)分類と、壊死の範囲や位置を示す病型分類が行われ、これらが治療方針を決定する上で重要な指標となります。
特発性大腿骨頭壊死症の病期
(ステージ)分類の概要(表2)
ステージ | 主な所見 | X線 text-align: center;所見 |
---|---|---|
Stage1 | MRIなどで壊死がわかる | 異常なし |
Stage2 | 帯状硬化像などが見られるが、骨頭の圧潰はない | 帯状硬化像あり、圧潰なし |
Stage3 | 骨頭の圧潰があるが、関節の隙間は保たれている | (3A:圧潰<3mm、 3B:圧潰≧3mm)圧潰あり、関節裂隙は保持 |
Stage4 | 関節の隙間が狭くなり、明らかな変形性股関節症の変化が出現 | 関節裂隙狭小化、骨棘形成など |
14病型分類は、壊死が骨頭の体重がかかる部分(荷重部)のどの程度の範囲を占めているかによって、Type A(軽微)、Type B(中程度)、Type C(広範囲、臼蓋縁を超えるか否かでC1/C2に分類)などに分類されます。この分類は、骨頭が将来的に圧潰するリスクを予測し、治療法を選択する上で非常に重要です。
特発性大腿骨頭壊死症の
治療選択肢
特発性大腿骨頭壊死症の治療目標は、痛みの軽減、大腿骨頭の圧潰進行の抑制、股関節機能の維持・改善、そして生活の質の向上です。治療法は、病期、病型、年齢、活動レベル、症状の程度などを総合的に考慮して決定されます。
保存療法
主に骨頭の圧潰がない早期(Stage 1-2)や、壊死範囲が小さいType Aなどで圧潰リスクが低い場合に選択されます。
- 薬物療法:消炎鎮痛剤(NSAIDsなど)で痛みを和らげます。
- 免荷療法:杖や松葉杖を使用し、患部への体重負荷を軽減します。
- 運動療法:関節の動きを保つための穏やかな運動や、周囲の筋力を維持する訓練を専門家の指導のもとで行います。
- 体重コントロール:体重を適正に保つことも重要です。
保存療法で圧潰を免れることができるかどうかは、壊死範囲の大きさに大きく左右されます。Type Aでは圧潰しないことが多いですが、Type C2では半数以上が圧潰に至るという報告もあります。
手術療法
保存療法で効果が得られない場合や、壊死範囲が広く骨頭圧潰のリスクが高い場合、すでに圧潰が進行している場合に検討されます。
関節温存手術
自身の股関節を残すことを目的とした手術です。
骨切り術
大腿骨の骨を切って角度を変え、壊死部分に体重がかからないように骨頭の位置を移動させる手術です(大腿骨内反骨切り術、大腿骨頭回転骨切り術など)。比較的若年で活動性の高い、骨頭圧潰が軽度な患者さんなどが適応となります。これにより人工関節への移行を遅らせることが期待できますがTHAに移行するリスクもあります。
人工関節置換術
損傷した関節を人工の関節に置き換える手術です。
人工股関節全置換術(THA)
骨頭と臼蓋(骨盤側の受け皿)の両方を人工物に取り替えます。進行した骨頭圧潰や変形性股関節症により強い痛みや機能障害がある場合に、除痛と機能回復に非常に有効な治療法です。
新しい治療法・再生医療
近年、特に骨頭圧潰前の早期段階において、骨の再生を促す治療法が注目されています。
細胞治療(幹細胞治療など)
患者さん自身の骨髄液や脂肪から採取した幹細胞などを壊死部に移植し、骨組織の修復・再生を促す治療法です。
PRP療法
患者さん自身の血液から抽出した多血小板血漿(PRP)を関節内に注入し、組織修復を促す治療法です。
これらの再生医療の多くはまだ新しい治療法であり、保険適用外であったり、臨床研究段階のものもあります。治療法の選択にあたっては、それぞれのメリット・デメリット、適応、エビデンスのレベルなどを専門医と十分に相談することが重要です。
日常生活での注意点と予後
特発性大腿骨頭壊死症と診断された場合、病状の進行を抑え、症状を管理するために日常生活での注意が重要です。
股関節への負担軽減
ジャンプやランニング、重い物を持つ、長時間の立ち仕事など、股関節に強い負荷がかかる動作は避けましょう。
体重管理
体重が増加すると股関節への負担も増えるため、適正体重の維持が大切です。
生活様式の工夫
床座りや和式トイレを避け、椅子やベッド、洋式トイレを使用する「洋式の生活」を心がけることで、股関節の深い曲げ伸ばしを減らし、負担を軽減できます。
禁酒・禁煙
アルコールと喫煙は危険因子であるだけでなく、血行を悪化させます。
杖などの使用
医師の指示に従い、必要に応じて杖や松葉杖を使用し、患側への荷重を減らします。
痛みの管理
痛みが強いときは無理せず安静にし、医師から処方された鎮痛薬を適切に使用しましょう。
早期受診のすすめ
股関節やその周辺(太ももの付け根、お尻、太もも、膝、腰など)に原因のわからない痛み、特に急に始まった痛みや持続する痛みを感じた場合は、自己判断せずにできるだけ早く整形外科専門医を受診することを強くお勧めします。特に、ステロイド治療歴がある方や日常的に多量の飲酒・喫煙習慣がある方は、特発性大腿骨頭壊死症のリスクを念頭に置く必要があります。
早期診断・早期治療は、大腿骨頭の圧潰を防ぎ、ご自身の関節を温存できる可能性を高めるために非常に重要です。特発性大腿骨頭壊死症は国の指定難病であり、深刻な状態に至ることもありますが、適切な診断と治療、そして生活上の注意点を守ることで、痛みをコントロールし、進行を遅らせ、日常生活の質を維持・向上させることが十分に可能です。
よくある質問
大腿骨頭壊死症によって壊死した骨は戻りますか?
残念ですが、完全に元に戻ることはありません。治療において重視することは、壊死した骨頭を元に戻すことではなく、股関節の機能を保ち、痛みを軽減させ、普段通りの生活を送れるようにすることです。
大腿骨頭壊死症の補助金はいくら出るのでしょうか?
1ヶ月の負担額上限は最高で30,000円となります。
主に医療費の助成と障害年金制度の2つの助成が受けられます。また、人工関節置換術にかかる費用も高額療養費制度や自立支援医療制度などを使うことで、助成される場合があります。
大腿骨頭壊死症の障害年金を申請する流れを教えてください。
一般的に以下の流れで申請していきます。
- 初診日の確認
障害年金の申請では「初診日」が非常に重要です。大腿骨頭壊死症の原因(ステロイド治療やアルコールなど)に関連した最初に医師の診察を受けた日を確認し、その病院で「受診状況等証明書」を取得します。 - 障害認定日の確認
初診日から原則1年6か月経過した日が「障害認定日」です(手術や人工関節置換によりそれ以前に固定した場合はその日も可)。 - 診断書の取得
現在の症状に応じた「肢体の障害用診断書(様式第120号の3)」を、主治医に記入してもらいます。人工股関節を入れている場合は3級の可能性が高いですが、両側や歩行困難などの状況次第で2級も検討されます。 - 申立書の作成
「病歴・就労状況等申立書」を自分で作成します。初診から現在に至るまでの経過、日常生活の制限、仕事への影響などを詳細に記入することが大切です。 - 年金事務所または社労士に提出
必要書類一式を揃えたら、年金事務所に提出します。不安がある場合は障害年金に詳しい社労士に相談するのがおすすめです。 - 審査・結果通知
申請から結果まで2〜4か月ほどかかります。認定されれば年金が支給開始され、不支給の場合は不服申立て(審査請求)も可能です。