- 大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)でお悩みの方へ
- 大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)とは何か?
- FAIの主な原因と代表的な3つのタイプ
- FAIでみられる主な症状
- FAIの診断方法
- 正確な評価が治療の第一歩 - FAIの治療法
- FAI手術後のリハビリテーション
- FAIの予防と日常生活での注意点
- (まとめ) 股関節の痛み、放置しないで専門医へ相談を
大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)でお悩みの方へ
~原因から治療まで~
股関節の痛みや詰まり感、動かしにくさは「大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)」のサインかもしれません。特に活動的な方に見られるこの疾患について、原因、症状、診断、そして治療法を分かりやすく解説します。この記事がFAIへの正しい理解と適切な対応の一助となれば幸いです。
大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)とは何か?
大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)とは、股関節を形成する大腿骨(太ももの骨)の骨頭や頚部と、骨盤側の寛骨臼(骨頭の受け皿)が、特定の動きで衝突(インピンジメント)する状態です。この衝突は、骨の形態的な異常が原因で起こり、股関節の縁にある関節唇や関節軟骨を損傷させ、痛みや炎症、可動域制限を引き起こします。放置すると変形性股関節症へ進行するリスクもあるため、早期発見・早期対応が重要です。
FAIの主な原因と
代表的な3つのタイプ
FAIの主な原因は、大腿骨側または寛骨臼側の骨の形態異常で、先天的なものや成長過程、繰り返しの負荷が影響すると考えられています。FAIは主に以下の3タイプに分類されます。
カム(Cam)
インピンジメント
大腿骨頭頚部に骨の隆起(カム変形)があり、股関節を曲げた際に寛骨臼の縁に衝突します。若い男性アスリートに多く、関節軟骨損傷のリスクがあります。
ピンサー(Pincer)
インピンジメント
寛骨臼が深く覆いすぎている、または縁が突出し、大腿骨頚部と衝突します。中年女性に比較的多く、関節唇損傷を引き起こしやすいです。
混合型(Mixed
)インピンジメント
カムとピンサー両方の特徴を併せ持つタイプで、最も多く見られます。
これらのタイプにより衝突の仕方は異なりますが、いずれも股関節機能を妨げ、痛みの原因となります。
FAIでみられる主な症状
- こんなサインに要注意
FAIの症状は様々ですが、以下のようなものが代表的です。
股関節の痛み
主に鼠径部(足の付け根)や股関節の側方、臀部に生じ、特定の動作(股関節を深く曲げる、内側にひねる、長時間座った後など)で誘発・悪化します。
股関節の詰まり感
・ひっかかり感
スムーズに動かない感覚。
可動域制限
特に股関節を深く曲げたり内側にひねったりする動作が困難になります。
クリック音
動かした際に音が鳴ることがあります。
スポーツパフォーマンスの低下
痛みや可動域制限による。
初期症状は軽微でも、放置すると進行する可能性があるため、症状が続く場合は専門医の受診が推奨されます。
FAIの診断方法
- 正確な評価が治療の第一歩
FAIの診断は、問診、身体所見、画像検査を総合的に行います。
1問診
症状、既往歴、スポーツ歴などを詳しく聴取します。
2 理学所見
股関節の可動域測定、圧痛点の確認、インピンジメントテスト(特定の動きで痛みを誘発するテスト)などを行います。
3画像検査
レントゲン検査
骨の形態異常(カム変形、ピンサー変形など)を評価します。複数の方向からの撮影が重要です。CAM変形を検出しやすい撮影法もあるため専門施設での撮影が望まれます。
MRI検査
関節唇や関節軟骨の損傷状態を詳細に評価します。ただMRIを撮影すればよいのではなく、股関節専門施設では、関節唇やインピンジメント所見を検出しやすくするような撮影指示をする施設もあります。
CT検査
骨の形態をより立体的に評価し、特に手術計画に役立ちます。
これらの結果から他の疾患と鑑別し、診断を確定します。
FAIの治療法
:保存療法と手術療法
FAIの治療法は「保存療法」と「手術療法」に大別され、患者さんの状態や希望に応じて選択されます。
保存療法
多くの場合、まず保存療法が試みられます。目的は痛みの軽減、炎症抑制、機能改善、進行予防です。
生活指導・動作改善
痛みを誘発する動作の回避、体重コントロール。
リハビリテーション
(運動療法)
中心的治療法。理学療法士指導のもと、股関節周囲の筋力強化、ストレッチ、可動域訓練、正しい動作パターンの学習を行います。

- 薬物療法:消炎鎮痛剤(内服・外用)で痛みをコントロール。
- 注射療法:関節内注射(ステロイドなど)で一時的に炎症や痛みを軽減。
手術療法
保存療法で改善しない場合や症状が強い場合、関節唇・軟骨損傷が大きい場合、早期競技復帰を望むアスリートなどには手術が検討されます。主に股関節鏡視下手術です。
股関節鏡視下手術
細い内視鏡と器具を用いる低侵襲手術。小さな切開から骨の衝突原因となる骨棘を切除し、損傷した関節唇の修復や切除、軟骨の処置を行います。
- メリット:
術後の痛みが少なく回復が早い、入院期間が短い。 - デメリット・リスク:
一般的な手術リスク(感染、血栓症、神経・血管損傷など)、再手術の可能性。経験豊富な専門医による執刀が望ましいです。
手術の決定は、医師と十分に話し合い、メリット・デメリットを理解した上で慎重に行われます。
FAI手術後のリハビリテーション
- 回復への道のり
FAIの手術成功には、術後の適切なリハビリテーションが不可欠です。プログラムは個々の状態に合わせて段階的に進められます。
- 術後早期(保護期):炎症抑制、組織修復促進。松葉杖使用、可動域訓練開始。
- 回復期(荷重・筋力強化期):徐々に体重をかけ、筋力トレーニング、バランストレーニング開始。
- スポーツ復帰準備期:ジョギングから開始し、競技特有の動作練習へ。
リハビリ期間は数ヶ月から1年程度かかることもあります。焦らず、専門家の指示に従い継続することが重要です。
FAIの予防と日常生活での注意点
骨の形態異常の完全な予防は困難ですが、症状悪化や発症リスク軽減のために以下の点に注意しましょう。
- 股関節に負担のかかる痛い動作(深いしゃがみ込み、あぐらなど)を避ける
- 適切な身体の使い方を意識する(特にスポーツ時)
- 股関節周囲の柔軟性と筋力を維持する(無理のない範囲で)
- 成長期の過度なトレーニングに注意
- 体重コントロール
- 股関節の異常を感じたら早期に専門医を受診する
(まとめ) 股関節の痛み、
放置しないで専門医へ相談を
大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)は、適切な対応で症状改善や機能回復が期待できる疾患です。股関節の痛みが続く場合は、自己判断せず専門医に相談しましょう。正確な診断と一人ひとりに合った治療で、より快適な生活を目指せます。