「いつの間にか骨折」の原因となる
骨粗しょう症とは?
骨粗鬆症とは、骨の強度が低下し、些細な衝撃でも骨折しやすくなる病気です。病状が進むと、体重による負荷だけで背骨の圧迫骨折を何度も起こし、自力で体を支えることが困難になります。このように、寝たきりのリスクも上昇させるトリガーにもなってしまいます。特に、加齢に伴って発症のリスクが高まり、日本では高齢化により、発症率が懸念されている疾患の1つとされています。現在、国内には約1,300万人の骨粗鬆症患者がいると推定されていますが、実際に治療を受けている方はたったの20%程度しか存在していません。
骨の強さは、骨密度と骨質という2つの要素によって左右されます。骨粗鬆症を予防したり進行を食い止めたりするには、骨密度を高めるのに加えて、骨質を改善することも不可欠です。
骨粗鬆症は、更年期以降の女性に多く見られますが、極端な減量や運動習慣により、若年層が発症するケースも珍しくありません。
骨粗鬆症の予防は、早めに取り組むほど大きな効果が得られやすくなります。下記のリスク要因に当てはまる方は、当院へご相談ください。
骨粗しょう症のリスクが高い人
下記の条件に当てはまる方は、骨粗しょう症の早期発見と適切な予防策が重要です。症状などで心当たりがある場合は、当院へお気軽にご相談ください。
- 喫煙する習慣がある方
- 飲酒する習慣がある方
- 過去に骨折を繰り返したことがある方
- ご両親のいずれか、大腿骨近位部(股関節付近)の骨折経験がある方
- 現在、ステロイド薬を定期的に服用している方、もしくは過去に3か月以上継続して服用したことがある方
- 糖尿病、甲状腺機能亢進症、関節リウマチの既往がある方、早期閉経(45歳未満での閉経)した方
- 更年期または閉経した方
- 低体重の方
骨粗しょう症による骨折のリスク
身長が4cm以上縮んでいたら骨粗しょう症?
骨粗しょう症とは、骨の密度や質が低下し、骨折リスクが高くなってしまう疾患です。高齢になると、「身長が低くなる」「背中が曲がる」「腰に痛みが生じる」といった症状が現れた場合、骨粗鬆症が隠れているかもしれません。これらの変化に対して「年だから」と捉える方もいますが、実際には、骨が脆弱になり、少しの衝撃や負荷でも圧迫骨折が起こることで現れる、骨粗鬆症の典型的な症状です。
特に、25歳の時と比べて身長が4cm以上縮んでいる方は、骨折するリスクがそうでない方よりも2倍増加するとされています。高齢になるほど痛みへの感覚も鈍くなるため、知らず知らずのうちに圧迫骨折を引き起こしている事例も珍しくありません。こういった骨折は「いつの間にか骨折」とも称されています。
中高年女性の
骨粗しょう症のリスク
中高年の女性は、更年期や閉経後に女性ホルモンの分泌が急速に低下することで、骨粗しょう症のリスクが著しく上昇します。女性ホルモンは骨の新陳代謝を正常に維持する上で重要な役割を果たしているため、減少すると骨の再構築バランスが乱れてしまいます。その結果、骨粗しょう症の進行や骨折のリスクが増えるのです。
また、近年では、若い女性や中高年の男性の患者数が増加傾向にあります。極端なダイエットは女性ホルモンの低下を起こし、若いうちから骨量の減少リスクを高める恐れがあります。また男性におきましては、糖尿病や慢性腎臓疾患などによる「骨の質」低下が懸念されています。
骨粗しょう症による
「いつの間にか骨折」が
起こりやすい場所と予後
骨粗しょう症は加齢とともに進行しますが、年齢とともに骨折しやすい箇所も変化します。
50〜60代の場合、手首の橈骨骨折がよく見られますが、より年配になると、上腕骨近位部(肩関節の近く)、脊椎(背骨)、大腿骨近位部(股関節に近い部分)での骨折も増加していく傾向にあります。特に、脊椎の圧迫骨折は、傷ついた背骨の負担を周囲の椎体がカバーすることで、連鎖的に骨折が続くリスクがあります。その結果、身体を支えられなくなり、寝たきりになるリスクも上昇してしまいます。
また、大腿骨近位部の骨折は、手術を余儀なくされるケースが多いです。さらに、手術を受けても、機能障害を抱えてしまい、歩行に支障をきたすリスクも高まります。
骨粗鬆症による骨折を防ぐためには、骨密度を保つことが重要であり、早くから骨粗鬆症のリスク評価と適切な対策をとることが不可欠です。
骨粗しょう症の診断
骨粗しょう症の診断では、問診・触診・視診だけでなく、X線検査や血液検査などの結果も考慮した上で、包括的な骨折リスク評価を行います。
X線検査
脊椎の圧迫骨折や骨の変形、椎間板の異常など、骨粗しょう症による変化を調べていきます。骨の状況を視覚化することで、早い段階から骨折リスクの評価へ繋げていきます。
血液検査
血液検査では、骨代謝マーカーを測定し、骨の破壊と再生(骨代謝)のバランスを調べます。骨代謝が過度に活発または低下している場合には、骨密度の低下または骨折リスク上昇の可能性を考えます。なお、骨密度が正常範囲内だった場合でも、骨質の低下により骨折しやすくなる可能性もあるため、油断は禁物です。
骨密度検査
骨密度は骨の強さを示す重要な指標です。当院では、2種類の異なるX線を用いた、高精度な骨密度測定(DEXA法)を取り入れております。骨粗鬆症の早期発見と、骨折リスクの評価を正しく行うために、活用しております。
骨粗しょう症の治療
骨粗しょう症の予防と進行防止のために、食事や運動療法を取り入れましょう。必要に応じて薬物療法も検討しましょう。
食事療法
食事療法では、1日に700~800mg以上のカルシウム摂取が勧められています。同時に、骨の代謝に必要なビタミンDやビタミンKを摂取することも大切です。
また、過剰なカフェイン・アルコールの摂取も控えましょう。カフェインはカルシウム排泄を促し、アルコールはカルシウムの吸収を妨げるため、摂取量には注意が必要です。
カルシウム不足は骨粗しょう症だけでなく、高血圧や糖尿病、動脈硬化などの生活習慣病のリスクを上昇させるため、バランスの良い食事を心がけましょう。
積極的に摂りたい食品
カルシウム:牛乳及び乳製品、小魚、大豆製品、緑黄色野菜など
ビタミンD:干しシイタケ、サケやサンマ、ウナギ、キノコ類など
ビタミンK:納豆、葉野菜、フルーツ類など
運動療法
適切な運動は骨を刺激して骨密度を向上させ、骨粗しょう症による骨折リスクを低下させる効果に有効です。筋力を高めると骨にかかる負担も軽減されるため、転倒を防ぐことにおいても役立ちます。週に数回、軽い汗をかく程度の運動でも効果が期待できます。
特に、背中の筋肉を鍛えることで、脊椎の圧迫骨折を予防できます。ただし、独学で筋トレを行うと怪我の危険性があるため、専門家の下でトレーニングを受けるのが望ましいでしょう。当院では、理学療法士が患者様に合った運動プログラムを提案し、ご自宅でも行えるストレッチやケアの方法も詳しく指導していますので、お気軽にご相談ください。
骨粗しょう症は適切な診断と早期の対策によって、骨折リスクを大幅に低減することが可能です。お悩みの際は、できる限り早めに受診しましょう。
薬物療法
治療では、持病の有無や歯科治療の予定などを丁寧にお伺いし、1人ひとりの状態に考慮しながら薬を処方します。検査結果に基づき、適切な骨吸収抑制薬や骨形成促進薬を処方します。薬の効能には個人差があるため、定期的な経過観察が必要です。近年では、飲み薬だけでなく、より効果に期待できる皮下注射や点滴治療も受けられるようになりました。お気軽にご相談ください。
- 骨吸収抑制薬:SERM製剤やビスホスホネート製剤、抗RANKLモノクローナル抗体製剤
- 骨形成促進薬:PTH(副甲状腺ホルモン)製剤
- 骨吸収抑制薬・骨形成促進薬:ヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体製剤
- ビタミン剤:ビタミンDやビタミンK製剤など
骨は一生のパートナーとなります。したがって骨粗しょう症治療は長期に継続する必要があります。今後の一生を見据えた治療戦略を考える必要があり、ただ骨密度が低いから上げるのではなく、予後や生活状況に応じて継続可能な治療を考慮する必要があります。現在は様々な治療法が出てきていますので、ご自身に合った治療をぜひご相談ください。
骨密度を上げる(骨を強くする)食事
骨を健康に保つためには、カルシウムやビタミンD・K、マグネシウム、タンパク質など、骨の形成に欠かせない栄養素をバランスよく摂取することが不可欠です。
また、適度な運動や規則正しい生活習慣を意識することも、骨密度の維持・改善において重要です。
乳製品
牛乳やチーズ、ヨーグルト など
カルシウムが多く含まれており、吸収効率も高いです。
小魚
イワシ、シラス、ワカサギ など
骨も食べられる魚にはカルシウムが豊富に含まれています。
魚介類
鮭、ウナギ、干しシイタケ など
特にビタミンDが多く含まれており、カルシウムの吸収を促します。
緑黄色野菜
納豆、モロヘイヤ、ホウレンソウ など
ビタミンKやミネラルが含まれており、骨の健康を維持させるのに役立ちます。
大豆製品・ナッツ類
豆腐、きな粉、アーモンド、胡麻 など
タンパク質やミネラルが多く含まれています。
きのこ類
シイタケ、キクラゲなど
ビタミンDが含まれており、骨の形成を促進させるのに役立ちます。
肉類
手羽元、牛スジ、皮が付いている魚 など
これらにはコラーゲンが豊富に含まれており、骨の強化に期待できます。