股関節の痛む「タイミング」と原因|いつ痛い?動き始めの痛み・特定のポーズでの痛みについて
はじめに
股関節の痛みは、変形性股関節症や股関節唇損傷など、原因によって現れる「タイミング」が異なります。「動き始めに痛みを感じる」のか、「特定の動作や角度で痛む」のか、あるいは「動いた後に痛む」のか。
これらの症状の違いは、病態を判別し、適切な治療方針を決定するための重要な情報となります。本記事では、痛みのタイミング別に考えられる疾患の傾向と、医学的な背景について解説します。
1. 「動き始め」の痛み(始動時痛)
椅子から立ち上がる際や、歩き出しの一歩目に痛みを感じ、少し歩くと痛みが軽減するケースです。これは医学的に「始動時痛(しどうじつう)」と呼ばれ、変形性股関節症の初期から進行期によく見られる症状です。
考えられる原因
症状の特徴
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起床時や、長時間座っていた後の動き出しに痛みが生じる。
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しばらく動いていると、関節の動きが滑らかになり痛みが軽減する(ウォームアップ現象)。
医学的背景
関節軟骨の摩耗や変性が始まると、関節表面の滑らかさが低下します。長時間動かずにいると関節内の滑液(潤滑液)の循環が滞るため、動き出しの瞬間に摩擦抵抗が高まり、痛みやこわばりが生じます。
動くことで滑液の循環が改善されると一時的に痛みは和らぎますが、軟骨の変性自体が治癒したわけではないため、注意が必要です。
2. 「特定の角度・ポーズ」での痛み(動作時痛)
歩行時は痛みが少ないものの、靴下を履く動作、あぐら、あるいはヨガやピラティスの特定のポーズで痛みが生じるケースです。全体的な軟骨の摩耗ではなく、関節内の特定の部位に物理的な負荷がかかっている可能性があります。
考えられる原因
症状の特徴
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深くしゃがむ、股関節を捻るなど、特定の可動域で鋭い痛みが生じる。
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日常生活では、爪切り、靴下の着脱、車の乗り降りなどで痛みを感じやすい。
ヨガ・ピラティスでの注意点
以下のポーズで痛みを感じる場合は、関節唇への負荷や骨同士の衝突(インピンジメント)が生じている可能性があります。
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鳩のポーズ(Pigeon Pose): 股関節の伸展と回旋が複合するため、関節唇への負荷が高まります。
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深いスクワットや屈曲動作: 大腿骨と骨盤が接近し、組織が挟み込まれるリスクがあります。
柔軟性の不足による筋肉の張りとは異なり、関節内部の構造的な問題が疑われるため、痛みを伴う可動域での運動は避けることが推奨されます。
3. 「動いている最中・動いた後」の痛み(運動時痛・夜間痛)
動作の開始時だけでなく、歩行中ずっと痛みが続く場合や、帰宅後・就寝時など安静時に痛むケースです。
考えられる原因
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変形性股関節症の進行
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関節内の炎症
- 腰椎神経根症
症状の特徴
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運動時痛:歩行や階段昇降など、体重がかかる動作で持続的に痛む。軟骨の摩耗が進行し、骨への負担が増加している可能性があります。
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動いた後の痛み・夜間痛:日中の活動による負荷で、関節内で炎症(関節水腫)が生じている状態です。安静にしていても痛む、痛みで目が覚めるといった症状は、炎症が強いことを示唆しており、安静と治療が必要です。神経根由来の痛みも安静時痛きたすことがあります。
4. 「歩いていると痛くなり、休むと治る」場合(間欠跛行)
歩き始めは順調でも、しばらく歩き続けると痛みやしびれが出て歩けなくなり、少し休むとまた歩けるようになる症状です。これは医学的に「間欠跛行(かんけつはこう)」と呼ばれ、股関節そのものではなく、腰の神経や足の血管に原因がある可能性が高い症状です。
考えられる原因
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疾患名 特徴・見分け方 腰部脊柱管狭窄症 神経性 背骨の変形により神経が圧迫されて起こります。
特徴は、「前かがみになって休む(座る)と楽になる」点です。
(例:スーパーのカートを押していると楽に歩ける)
閉塞性動脈硬化症 血管性 足の血管が詰まり、血流不足になることで起こります。
特徴は、「立ち止まって休むだけで楽になる(姿勢は関係ない)」点です。
主にふくらはぎが痛みます。
股関節症との違い
変形性股関節症の場合、痛みは主に「脚の付け根(鼠径部)」に出ることが多く、歩行距離に関わらず「着地の衝撃」や「関節の動き」そのもので痛む傾向があります。一方、上記の2つは「時間や距離」に依存して症状が出現する傾向があります。
まとめ
股関節周辺の痛みは、そのタイミングによって示唆される病態が異なります。
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動き始めの痛み(始動時痛): 変形性股関節症の初期症状の可能性があります。
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特定の角度での痛み: 関節唇損傷やインピンジメントの可能性があります。
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安静時や夜間の痛み: 関節内の炎症が疑われます。
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歩行中に出現し、休むと治る(間欠跛行): 脊柱管狭窄症や血管障害など、股関節以外が原因の可能性があります。
特に「動き始めの痛み」は、変形性股関節症の早期発見につながる重要なサインです。また、脊柱管狭窄症などが股関節の痛みと合併しているケースも少なくありません。
違和感が続く場合は、レントゲンやMRIによる詳細な評価を受けることをお勧めします。先日は東京でサラサラの雪が降りました。降雪時の気温が低かったのですね。10年来で初めてのことです。暦の上では春が近づいていますが、冷え込みはまだ厳しい折、どうぞ皆様も温かくしてお過ごしください。(2026/2/9 院長 佐藤啓)
参考文献
+ 参考文献- Altman, R., et al. (1991). "The American College of Rheumatology criteria for the classification and reporting of osteoarthritis of the hip.
- Philippon, M. J., et al. (2009). "Labral tears and femoral acetabular impingement.
- Garrison, J. C., et al. (2014). "The etiology, evaluation, and management of acetabular labral tears."
- Katz, J. N., et al. (2008). "Degenerative lumbar spinal stenosis with neurogenic claudication.
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