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「なぜ当院は『横向き(側臥位)』で手術するのか? ~徹底した脱臼テストと安全へのこだわり~」

仰臥位 vs 側臥位:脱臼テストに適した体位とは?

人工股関節の手術には、大きく分けて仰臥位(仰向け)側臥位(横向き)の2つの体位があります。

近年は仰臥位(仰向け)での手術も増えてきていますが、当院では「脱臼テストを徹底的に行う」という安全性の観点から、あえて側臥位(横向き)を採用しています。

なぜ、私たちは側臥位にこだわるのか。その理由と、安全への取り組みについてお話しします。


側臥位(横向き)を選ぶ最大のメリット

側臥位の最大の利点は、「手術中に極限まで動きを確認できる」ことです。さらに、解剖学的な安全性も確保しやすい体位です。

  • ✅ 徹底的な可動域テストが可能
    可動域の制限がないため、日常生活で起こりうるあらゆる角度(深く曲げる、捻るなど)で徹底的な脱臼テストが行えます。
  • ✅ 想定外の「抜けやすさ」を発見できる
    手術中に「思ったより外れやすい(易脱臼性)」というリスクを発見し、その場でインプラントの調整などの対処が可能です。
  • ✅ 重要臓器を守る安全性
    横向きになることで、主要な血管や腸管などの重要臓器が重力で下がり、手術部位(股関節)から離れます。これにより、誤って器具が当たるリスクを物理的に減らすことができます。
  • ✅ 良好な視野の確保
    出血が重力で下に流れるため、手術部位(術野)が見やすく、正確な操作が可能になります。

側臥位の課題と、それを乗り越える技術

もちろん、側臥位にはデメリットもあります。しかし、私たちは「手間をかけてでも、安全性を最優先する」ためにこの方法を選んでいます。

⚠ 手術の手間と時間
麻酔後に体位変換を行ったり、体を固定したりする手間がかかります。

ARナビゲーションシステム

➡ 私たちの考え:
これらは確かにスタッフの労力を要しますが、患者さんの「術後の安全性」には代えられません。麻酔のリスク管理も含め、熟練したチーム体制でカバーしています。

⚠ 骨盤の傾きによるズレ
横向きに寝ると骨盤が傾きやすく、正確なインプラントの角度が把握しにくいという課題がかつてはありました。
➡ 解決策:ナビゲーションシステムの活用
現在は、ナビゲーションツールを使用することで、骨盤がどの程度傾いていても、インプラントの角度をミリ単位・1度単位で正確に把握・設置できるようになり、この課題は克服されつつあります。

 


「禁止肢位なし」を実現した3つの進化

こうした徹底したテストに加え、以下の技術進歩が重なることで、私たちは「禁止肢位なし」の実現を目指しています。

  • 🔹 アプローチの進化
    筋肉への侵襲(ダメージ)を抑える手技により、関節を安定させる力が温存されるようになりました。
  • 🔹 インプラントの進化
    摩耗に強い「クロスリンクポリエチレン」の登場で、脱臼しにくい「大きな骨頭」が使用可能になりました。
  • 🔹 デジタルの進化
    前述の通り、ナビゲーション等により、計画通りの正確な設置が可能になりました。

これらはすべて、先人たちの研究と、日々の臨床での積み重ねによる成果です。


まとめ

  • ✅ 人工股関節において「絶対に脱臼しない」とは言い切れません。
  • ✅ しかし、術中の徹底した脱臼テスト(側臥位)正確な設置(ナビゲーション)により、限りなく安全性を高めることは可能です。
  • ✅ その結果、初回手術の患者さんにおいては「禁止肢位(やってはいけない姿勢)は、ほぼ不要」と考えています。


「手術中、どのように安全が確保されているのか」を知っていただくことで、少しでも安心して手術に臨んでいただければ嬉しいです。
今後も、より安全で負担の少ない人工股関節置換術を追求してまいります。

+ 参考文献

  • Seki T, et al. "Hip stability after total hip arthroplasty predicted by intraoperative stability test and range of motion." Journal of Orthopaedic Science. 2019.
  • Aggarwal VK, et al. "Complications of Direct Anterior Versus Posterior Total Hip Arthroplasty." The Journal of Arthroplasty. 2019.
  • Kalteis T, et al. "Imageless navigation for insertion of the acetabular component in total hip arthroplasty: is it as accurate as CT-based navigation?" Journal of Bone and Joint Surgery (Br). 2006.
  • Howie DW, et al. "Large femoral heads decrease the incidence of dislocation after total hip arthroplasty: a randomized controlled trial." Journal of Bone and Joint Surgery (Am). 2012.