股関節の痛みはいつから?発症期間でわかる病気のサインと原因【整形外科】
はじめに
日頃の診療の中で、私が必ず伺う内容の一つに「いつから痛いですか?」という項目があります。 医学が進化し、MRIやCTなど様々な検査がありますが、やはり基本となる「問診」は欠かせないものです。問診の内容に加え、診察室に入ってくる瞬間の歩き方や姿勢で、ある程度診断が推測できると言っても過言ではありません。
その痛みが「いつから始まったのか(発症からの期間)」を整理することは、原因を突き止め、適切な治療を受けるための重要な手がかりになります。
今回は、痛みの発症時期や期間を軸に、考えられる股関節の病気や原因について解説します。
1. 股関節の痛みを「時間」で分類する重要性
整形外科の診察で、医師が必ず最初に聞く質問の一つが「いつから痛いですか?」です。 医学的には、痛みの期間によって大きく以下の3つに分類して考えます。
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急性(きゅうせい): 発症から数日〜2週間以内
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亜急性(あきゅうせい): 2週間〜3ヶ月程度
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慢性(まんせい): 3ヶ月以上続いている
あなたの痛みはどのタイプに当てはまるでしょうか?それぞれの期間で疑われる病気を見ていきましょう。
2. 【急性】「突然痛くなった」場合に考えられる原因
「昨日の夜から痛い」「数日以内に急に痛くなった」という場合、外傷(ケガ)や細菌感染、急激な炎症が疑われます。
① 外傷・ケガ(骨折・捻挫)
転倒したり、スポーツで無理な体勢をとったりした直後から痛む場合です。原因に自覚があることがほとんどですが、高齢者の場合は注意が必要です。
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・大腿骨近位部骨折(だいたいこつきんいぶこっせつ): 高齢者の方で、転倒直後に立てなくなった場合はこの骨折の可能性が高いです。手術が必要になるケースが大半です。
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・恥骨・坐骨骨折(ちこつ・ざこつこっせつ):「転倒などのきっかけ(受傷機転)があり、レントゲンで大腿骨に明らかな骨折はない」と言われた場合でも、骨盤の一部である恥骨や坐骨が折れていることがあります。足は動かせるけれど痛みが続くのが特徴です。
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・筋肉や腱の損傷:いわゆる「肉離れ」です。スポーツ中などに発生します。
② 化膿性股関節炎(かのうせいこかんせつえん)
非常に緊急性が高い病気です。細菌が関節内に入り込み、急激に軟骨や骨を破壊します。
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特徴: 激しい痛みで動かせない、高熱が出る、患部が熱を持っている。
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対応: 直ちに病院へ行ってください。 処置が遅れると関節が破壊され、重い後遺症が残ります。
③ 単純性股関節炎(たんじゅんせいこかんせつえん)
主に小児において、特にきっかけなく股関節痛が突然起こることがあります。風邪をひいた後などに起こりやすく、安静で治ることが多いですが、前述の「化膿性股関節炎」との鑑別が非常に重要です。自己判断せず、必ず病院で診断を受けてください。
④ 偽痛風(ぎつうふう)や石灰沈着
関節の中にカルシウムの結晶ができ、それが激しい炎症を引き起こします。怪我をしていないのに、ある日突然激痛が走り歩けなくなることがありますが、適切な治療(石灰吸引注射など)を行えば、劇的に改善することが多いのが特徴です。
3. 【亜急性】「数週間〜数ヶ月痛い」場合に考えられる原因
「最初は違和感だったけれど、だんだん痛くなってきた」「スポーツを続けていたら痛みが引かなくなった」というケースです。
① 股関節唇損傷(こかんせつしんそんしょう)
股関節の受け皿の縁にある軟骨(関節唇)が傷ついている状態です。
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特徴: 深くしゃがんだ時や、足を捻った時に鋭い痛みや「引っかかり感」がある。
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原因: スポーツによる酷使や、FAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント)という骨の形状異常が関与することがあります。
② オーバーユース(使いすぎ)による炎症
長距離ランニングや過度なトレーニングにより、股関節周辺の筋肉や腱に疲労が蓄積して炎症を起こしています(グロインペイン症候群など)。安静にすると治まりますが、再開するとまた痛むのが特徴です。
③ 大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)の初期
大腿骨の頭(ボール部分)への血流が途絶え、骨が壊死してしまう難病です。
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リスク因子: ステロイド薬の大量使用歴がある方、アルコールを多飲される方に多く見られます。
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特徴: 最初は急な痛みで発症し、その後痛みが引いたりぶり返したりしながら進行します。
④変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)の初期
4. 【慢性】「3ヶ月〜数年以上痛い」場合に考えられる原因
もっとも多くの人が悩んでいるのがこの「慢性痛」です。徐々に進行する変性疾患が主役となります。
① 変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)
日本人の股関節痛の原因で最も多い病気です。 加齢や、生まれつきの被りの浅さ(臼蓋形成不全)などが原因で、長い年月をかけて軟骨がすり減り、骨が変形していきます。
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初期症状: 起き上がりや歩き始めに痛む(始動時痛)。
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進行期症状: 長時間歩くと痛む、足の爪切りがしにくくなる、あぐらがかけなくなる。
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末期: 安静にしていても痛む、夜寝ていても痛む。
長い時間をかけて進行するため、「年のせいだから」と放置されがちですが、早期にリハビリや体重管理を行うことで進行を遅らせることが可能です。
② 大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)
大腿骨頭壊死症も進行すると変形性股関節症と同様の症状を呈します。
③ 腰からの関連痛(坐骨神経痛など)
「股関節が痛いと思っていたら、実は腰が悪かった」というケースは非常に多いです。 腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などで神経が圧迫されると、お尻や股関節のあたりに痛みが放散することがあります。
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見分け方のヒント: 股関節を動かしてもあまり痛くないが、腰を反らしたり前屈したりすると股関節付近に痛みが走る場合は、腰が原因の可能性があります。動きはじめの痛みではなく歩行中、徐々に痛くなるような症状も特徴的です。
5. こんな時はすぐに病院へ!危険なサイン
痛みの期間に関わらず、以下のような症状がある場合は、様子を見ずに早急に整形外科を受診してください。
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安静時痛: じっとしていても、夜寝ていても激しく痛む。
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発熱: 痛みとともに37.5度以上の熱がある(感染症の疑い)。
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歩行困難: 体重をかけられない、足を引きずらないと歩けない。
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しびれ: 足の指先などにしびれや麻痺がある。
まとめ:痛みは体からのSOS
股関節の痛みは、発症からの期間によって疑われる病気が異なります。
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急な激痛: 外傷、感染、急性の炎症
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数ヶ月続く痛み: 使いすぎ、関節唇損傷
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長年の痛み: 変形性股関節症
「いつか治るだろう」と我慢して慢性化させてしまうと、患部をかばって歩くことで、腰や膝など他の部分まで痛めてしまう「負の連鎖」が始まります。変形性股関節症や、関節唇損傷も痛みが自然軽快する場合があります。ですから、痛みはじめの段階から原因を調べ対処法を知ることが大切だと考えています。
受診の際は、「いつから痛いのか」「どんな時に痛いのか」をメモして、早めに専門医(整形外科)に相談することをおすすめします。自分の股関節の状態を正しく知ることが、痛みのない生活を取り戻す第一歩です。暦の上ではまもなく立春ですが、まだ寒さが身に染みる日が続きますね。 春の陽気の中を颯爽(さっそう)と歩けるように、今から股関節のケアをしっかりとしておきましょう。痛みのない軽やかな一歩を踏み出せるよう、私たちがお手伝いいたします。(2026/2/2院長 佐藤啓)
+ 参考文献
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- 日本整形外科学会(監)『変形性股関節症診療ガイドライン 2024(改訂第3版)』南江堂.
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- 日本整形外科学会 診療ガイドライン委員会『特発性大腿骨頭壊死症診療ガイドライン 2019』南江堂.
- Kocher M.S., et al. "Differentiating between septic arthritis and transient synovitis of the hip in children: an evidence-based clinical prediction algorithm." J Bone Joint Surg Am. 1999; 81(12): 1662-70.

